ポートレートを撮ることとは:Alexandre Boucher と Sprocket Rocket

Sprocket Rocket はフィルムそのもののアジと共にイメージをスプロケットの穴ごと写しだしてしまうことでおなじみです。同様に、ポートレートフォトグラファーの Alexandre Boucher もモデルたちの持つ、美しさと完璧じゃない様全てを彼の写真に写しだします。そして、その両者を掛け合わせたら何が起こるのでしょうか?

ここでは、「このモデルはどんな人で、どんなストーリーがあるのだろうか?」と思ってしまうような複雑で感情的なポートレートを見ることが出来ます。Alexandre にかれのアーティスティックな経験とこの Sprocket Rocket ポートレートを生み出すまでの過程について詳しくお話を聞きました。(まったくもって、科学的な経験です!)

Photos by Alexandre Boucher | Models: Evelyn Faber (left), Kyrie-Anne Gilbert (right)

こんいちは Alexandre、ロモマガジンへようこそ。少しだけ自己紹介をお願いします。

どうもありがとう!そうですね、インタビューの為にも、僕はフォトグラファーであると言っておきます。正直にいうと、いわゆるなんでも屋さんです。いくつか得意なことがあって、いろんなことに興味もあるし、趣味もあります。木工作業に(写真の傍ら大工としても働いています)、絵画やドローイング、読書、コンピューター構築にプログラミング、電子部品の製造に音楽とリストはまだまだ続きます。それでも写真は僕の心にもっとも近い存在なんです。80年代後半、ティーンエイジャーで大学生だったのころにフィルム写真を始めました。若いころは、やめたり、やめなかったりとしましたが、僕の人生の一部でした。子供たちが生まれてから(娘は5月で18になりました)、毎日を写真に収めようとしました。デジタルとフィルムの両方で撮影をし、自分でフィルムを巻き、現像し、自分で投稿した写真を全てレタッチし(ほとんどクリーニングですが。カメラで撮っただけの状態の写真は95%仕上がりに近い状態に保っています。)、日常から新しいアイディアを探しています。写真は毎朝起きるための口実にもなっています。本当に大好きです。血肉になっていますね。

なぜポートレイトを撮っているのですか?そしてそこにはどんな意味があるのでしょうか?

フォトグラファーとしての経験のほとんどでは、全てを撮影していました。風景、旅、建築、ポートレイト、静物、マクロ、天体写真などなどです。最後の6、7年で写真にのめり込み、約1年前にフルスロットル全開でポートレート写真へシフトしました。みんなの顔にその美しさをみるからこそ、ポートレイト写真を撮っています。たとえ人々が彼らのその美しさに気が付かなかったとしてもです。ポーズの合間に僕の撮影したものをモデルに見せると、否定より多くの驚きをもらいます。それこそ、僕が彼らに向けてる視線なんです。文字通り、光は彼らの顔を見事に彫刻するんです。これがポートレイトを撮る理由です。肌のもつ美しいツヤとそのテクスチャーと輝きに鑑賞者はまず心打たれると思います。しかし、こぶやくぼみ、そばかすやほくろといった、不完全なのの中にこそ本当の美しさがあるんです。つまり僕にとっては金のようなものです。もし、光やツヤ感に鑑賞者がひきつけられ写真を見たところに、不完全なものたちが目に入れば、彼らの目はもうくぎ付けです。私は、その部分を取り除こうとはしません。覆い焼き、トーン調整、ブレンドのみをモデルの雰囲気にあわせて行うだけです。それ以外の場合は、その不完全な部分を華やかなアイキャッチに仕上げます。

Photos by Alexandre Boucher | Model: Kyrie-Anne Gilbert

ポートレートを通して捉えたい、もしくは描きたい感情はありますか?

もちろん!よくモデルには、彼らのソールをつかむことが目標だと言っています。いざ始まれば、胸の中で深い感情がざわめくんです。涙が出そうになります。数週間前、13歳の女の子@charlotte_roy_08を撮影しました。何カ月も前から撮影のアイディアはありました。さらにさかのぼること2021年の12月に、彼女の母親に、彼女からは何か古風なエネルギーを感じると伝えていたんです。Evelyn Nesbit という20世紀初頭のモデルの雰囲気を彼女から感じたんです。彼女と個人的に会ったとき、僕のマインドはさらに数世紀も前にさかのぼってしまいました。そしてその日にルネサンスのアイコンを撮影したんです。撮影後すぐさま、泣かないように深く息を吸い、彼女の母親に向き直り、「いま感動しています。モナ・リザを撮影してしまいました!」といったんです。母親もカメラのスクリーンを見て、驚いて飛び上がっていました。僕も一緒に飛び上がりましたね。僕のInstagram を見れば、その写真が見れます。絶対見てくださいね。

Lomographyの Sprocket Rocket を言い表すとしたら?

スタートの段階から、常にフィルムやテクスチャー、サイズ、スプロケットなどについて考えていましたが、どれも驚きですね!一部しか伝えられないのが本当にもったいないですね。テクノロジーやテクニック、フィルムそのもの、そのキズやシミ、埃や光漏れなど全部見せられると良いのですが。さらに言えばフィルムの表面全てに銀塩が施されています。その表面全部使わないわけにはいきません。かつて Holga で実験をしたことがあります。うまくいきましたが、カメラそのものはそのためのものではなかったです。2011年か2012年あたりに Sprocket Rocket をマガジンかウェブサイトの広告で初めて見て、気になっていました。2013年12月、4日間だけのNY旅の際、恋人に西8番通りにあるロモグラフィーストアに行きたいといって訪れました。そこで、彼女が Sprocket Rocket を買ってくれたんです。すぐに使い始めましたね。ぞっこんでした。美しいボディに想像を超えたアートを作り出すカメラでした。最近二個目をねだったら、成功しました!幸せx2ですね!

Photos by Alexandre Boucher | Model: Arthur Joalland

この Sprocket Rocket ポートレートは本当に驚きです。プロセスについてお話してくれますか?

ありがとう!プロセスはいたってシンプルですが、ほんの少し複雑で抽象的です。明らかに光についてのことなのですが、論理的には時間軸のひねりも加わっていると思います。大きく3つの要素があります。写真についての知識、光についての十分な理解そして最も大切なのが数学的なスキルですね。

まず、写真に対する知識は役立ちます。知っての通り、 Sprocket Rocket はそこまで柔軟なカメラではありません(例えば Sony a7rIV や Canon R5 とくらべてみて)。ほとんどマニュアルフォーカス機能もなく、絞りは f10.8 と f16 と固定(フラッシュでの撮影が必要なくらいの絞り値)、シャッタースピードも1/100秒に固定され、ISOはフィルムの箱の通りではないといけません(より繊細な粒子感のためにISO100を好んでいます)。測光スキルも必要で、同時に露出の三角関係についてのセオリーも瞬時に判断しなければいけません。思い通りの結果を得るための増感・減感についての化学レシピの計算方法も知る必要があります(一つの計算ミスで、真っ白か真っ黒のフレーム以外何も残りません)。近い距離でビューファインダーをのぞくことはあまり意味のないことなので、焦点範囲(±80センチ以内)のなかにモデルを収め続けることも必要です。ファインダーをわざわざ使う必要もありません。

ライティングの理解はマストです。メインの光源は正しい位置にあるか、ライトの柔らかさ、光量、方向などはどうかなど意識しなければいけません。フィルムに二度目のチャンスなどありません。撮影したものをその場で見ることも調整もできません。良いものでなければいけません。それだけです。フラッシュを使うのであれば、フラッシュのタイミングにより慎重にならなければいけません。1/100秒の中でフラッシュをたく必要がありますが、失敗したら全部真っ黒な写真が出来上がりです。正しいか正しくないかを判断してくれるガジェットなどないのですから、しっかり見るほかありません。また優れたモデルを持つことも大切です。こちらがテクニカルな問題で忙しい中、彼らは彼らの仕事をしてもらわなければならないからです。

数学的なスキルはキーとなるものです。数学はすべてを包括します。本当に頼りになるのはこのパラメーターだけです。絞り、シャッタースピード、ISO、光の強さ、フラッシュの同調、焦点距離、モデルの顔に対するレンズの高さと位置(ワイドなパノラマレンズの場合、間違った場所にレンズがあることで、とてつもなく歪んだ結果になってしまいます)、現像に必要な時間の計算(増感か減感かなど)、オーバーすぎるもしくはアンダー過ぎる現像のリスクへの理解、薬品でどこまでできるかを決め、後処理とライトバランスの間でで何ができるか…すべてが数学に関係しています。

もっともトリッキーなのは、周囲のライティングに対してアンダー目かオーバー目かでの露出を「感覚的」に調整することです。撮影前もしくは撮影中に増感もしくは減感で現像するのかを決めておく必要があります。ネガをきっちり現像するまでにはじめから、フラッシュの強さを「感覚的」ではある露出パラメーターの理論に沿って調整する必要があるんです。後々の行動は、過去の行動に影響します。プロセスがあまりにも抽象的なので、上手く説明できているのか分かりませんね。単純な計算で、そのプロセスの中で常に何度も考えなければいけない時間の中に存在する数学的な方程式なんです。脳のプロセスコードのように、仕上がって初めて終わるループを常に確認するんです。

正にこれなんです。まさにこれを僕は実践しているんです。すべてが釣り合う場所にいなければならないんです。そこはつまりアートと化学が何かしらの方法で出会うような場所だと思うんです。たまには失敗することもありますが少なくなってきています。

モデルと仕事をしているフォトグラファーに何かアドバイスはありますか?

僕が思うに、写真とはカメラを持った人とモデルがいるだけでは成り立たないものだと思います。全く成立しません。ポートレート写真はチームワークです。両者は対等であり、最終的な目標は共に、想像を超えたイメージを作り出すことなんです。服従関係はそこにはありません。全員が重要な役割であり、尊重しあうことがルールその1。ポートレート写真とは尊厳的なものなんです。それはまさに人であることに対する賛美そのものなんです。

よいポートレートフォトグラファーはカメラを持っていようがいまいが、美しさを発見できる人物だと思います。よいモデルとは、強さや弱さを理解し、美しさを表現するためにそれらのバランスを取るスキルを持っている人たちです。モデルが美しい不完全さをもち、それをどう自分のものにし、扱うかを理解している時、それは最良のものになります。Marilyn Monroe にその有名なほくろが無ければ、そしてその美しさを見出すスキルが無かったら、無名のままだったでしょう。すでに言ったように、これは永遠ではなくても長い間、写真に目をくぎ付けにし脳裏に焼き付けることなんです。似たような例はたくさんあります。写真家として、そのことや、よいイメージを作り出すためにその不完全な部分を使うこと、見せたい部分とそうでない部分の境目についてモデルとよく話すべきです。それをしなければ、モデルは固まったまま、ガードを緩めず、鑑賞者に語り掛けるようなイメージを生みだすためにオープンになることもありません。一度この問題を取り除いてしまえば、磁場は動き出し、モデルもレンズを自分から引っぱり始めます。モデルも誰しも彼ら、彼女らに付きまとうものを持っているんです。私たちは彼らの内なる悪を飼いならし、良い物に変えなければいけないんです。一度得てしまえば、作品は最高なものになること間違いなしです!本当です。コミュニケーションこそ重要なんです。尊重しあったコミュニケーションです。

モデルの経験のない人と仕事をするフォトグラファーへのもう一つのよいアドバイスは、少なくとも30分、ウォーミングアップをすることです。撮影の最後に写真を見たとき、その効果は明白です。プロのモデルと行うときは全く違い、ウォーミングアップは数分で、全く時間を必要としません。

Photos by Alexandre Boucher | Models: Evelyn Faber (left), Juliette Boucher (right)

何か次に向けた制作はしていますか?

沢山のプロジェクトを抱えています。スタジオポートレート、ライフスタイルに編集作業です。アイディアがひっきりなしに、次々に出てきています。そのアイディアに圧倒され、時間のない中編集しなければいけない膨大な写真の量にも圧倒されています。 Vivian Maier みたくなりそうです!真面目に、自分の人生をいまは過ごしています。いつも驚くべき人と出会い、毎週撮影し、できる限りの全ての素晴らしい機会を受け入れ、カメラでできることの限界を押し広げています。そろそろギアを入れ替えなければとも思います。

3、4人もしくはそれ以上のモデルを迎い入れようと計画もしました。基本的に彼ら彼女らと撮影をし、新しいことを試すことが出来ます。顧客に払うというようなことはしません。これまででは、様々な撮影のために一人モデルを迎え入れたことがあります。彼女はとても卓越していて、悪い写真を撮ることなどできませんでした。僕の Instagram で私たちが作り出した写真を見ることが出来ます。彼女のInstagramは @mailyslamoulie です。次の数年でファッション業界の顔の一人になれるほどのポテンシャルを持っていると思います。彼女のために応援します。

とにかく、ロモグラフィーとのプロジェクトは最優先事項でした。フィルム写真とデジタル写真の50/50の拮抗は一種のツボですね。最近ではフィルム写真にのめり込む人も多いと思います。僕が思っている以上です。 Lomo LC-A+ を注文したばかりなんです。Sprocket Rocket のようなマジックを期待しています。そして、初めてC-41プロセスでカラーネガを現像する予定です(35年間白黒で仕事をしてきて初めて)。すぐにカラーの Sprocket Rocket ポートレートがアップされると思います。僕の状況をリアルタイムで見ることが出来ますね。


クリエイティブなプロセスをシェアしてくれてどうもありがとう Alexandre !彼の Instagram もフォローしてみよう!

Sprocket Rocket 35 mm Film Panoramic Camera もチェック!


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2022-08-08 #gear #people kaylalew の記事

Lomography Sprocket Rocket

フィルムの穴部分であるスプロケットまで露光することができるSprocket Rocketは、スーパーワイドレンズな35mmフィルムカメラ。毎ショットスプロケットまで露光できます!パノラマな写りをこのカメラとアクセサリでお楽しみください。

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