ストリートフォトグラフィーの定義は「歩く」こと: 5ickdude
2 Share Tweetストリートフォトグラフィーの定義は「歩く」こと。フォトグラファーの5ickdudeさんは中判カメラを構え、ストリートへと繰り出します。彼は複雑さや矛盾を孕む都市の魅力をどのようにとらえるのでしょうか。今回のインタビューにて彼の哲学を語ってもらいました。
まずは、このインタビューを読む前に、5ickdudeさんのインスタグラム で作品をご覧ください。一通り目を通してからここに戻ってきてみてください。
ーフィルムで撮る理由は?また、フィルムで撮るようになったきっかけは?
思春期のころは、スマホは無くデジカメもまだ普及していなかったので写ルンですを買って青春の日常を記録していたのを覚えています。それがきっかけでは無いのですがアナログ写真に触れてきた最後の世代でした。それから2018年にLos Angelesでの旅行中、Rose Bowlという都市最大級のフリーマーケットにあるフィルムカメラだけを扱うお店でCanon AE-1 Programを勧められました。完動品で標準レンズ付きで$120、デジタルカメラとは違ってふとぶとしくずっしりと重たいボディも気に入りました。California Joshua Treeの砂漠暮らしを初めてその35mmフィルム一眼レフで撮影しました。
それまではデジタルカメラで撮影をしていたのですが、何度も何百枚もの写真加工をしてる間に何が本当だったのかわからなくなりました。デジタルカメラでの撮影はとても曖昧なものになってしまい、反対にフィルムで撮影した写真は、フィルム自体の特性や光とフィルムの化学反応で色が決まるのでその明確さにはどんどん魅了されていきました。フィルムをただ使用した場合も、懐かしい色味や、レンズの生々しい表現が如実に表れる感覚がフィルム写真にはあります。
フィルムでの撮影は、結果としてなぜそのような色合いになったかについてはっきりと解ります。露出の測定、絞りとシャッタースピードの設定、フォーカシング、そしてシャッターを切る。曖昧になる要素がほぼ無いです。熟練すればするほど、なぜそこにフレアが現れたのかとか、この一コマだけなぜ真っ白の結果だったのか、簡単に理解できるんです。そこがアナログ写真をする上で最も苦労するところで、一番楽しいと思えるところです。あとはフィルム撮影する際にある種の緊張感を生み出す事が出来ると思います。撮る側も被写体側も、フィルムだという認識をして撮影すると思うので、失敗しない限りはとても不思議な緊張感と素晴らしい結果を生み出す魔力があると思います。
ーあなたにとっての写真のインスピレーションのもとは?
幸いなことに思春期をアナログなものに囲まれて育ったので、80s/90sのサブカルチャーにインスパイアされる事が多いです。それ以前の時代にもすごく愛着があって、なんというか時代に逆行している事にインスピレーションを受けます。少し前まではそれはノスタルジーではないかと思っていて堂々と言いにくい気もしていたのですが、逆行するという事はかなり苦労してその存在意義を肯定しようとしている、というように考えをシフトしました。
自分にとってはスケボーはまさにそれにあたるので、スケボーをする事自体もそうだしストリートのスケーターからはものすごくインスピレーションを受けることが多いです。良質な映画もそのひとつです。当時VHSで良く映画を見ていた事も影響していて今も映画好きです、最近では群像劇が好きで、Thomas AndersonのInherent Viceやタランティーノ作品Pulp Fictionを見る事はかなりのモチベーションに繋がります。フィルムで撮影された映画のディテールにとても影響を受けます。
ー好きな写真家や見本にしている写真家はいますか?
たくさんいます。プロ/アマに関わらず最近ではインスタグラムのおかげで世界中のフィルム写真活動をしている方と知り合う事が出来ました。彼らの勢いや考え方、表現力には毎日影響を受けています。あと、できる限り周りの方の写真を意識して見本にはしないように心がけています。石川直樹さんが少し前から好きで、この方は何よりエベレストを登頂する登山家ですのでその生き方がカッコよくて好きです。また山の写真だけではなく彼の出身地(渋谷)を題材にしたSTREETS ARE MINEという写真集を買ったのですが、まだ開いて無いです。理由としては僕も渋谷を一つのテーマとして捉えているので、いまは自分が撮りたいものに集中する為です。でも早く石川直樹さんの渋谷を見たくてウズウズしています…(笑)。
Greg Hunt氏のNinety - Six Dreams, Two Thousand Memoriesも大好きです。実は仲間のスケーターかつ彼の写真集の題材でもある'Jason Dill'のことが好きで、僕ら当時のスケーターの中ではJ.Dillは神様の1人でした。アイドルスケーターでは無かったものの、当時から偉才を放つスケーターでした。そのJ.Dillを追い続けた写真集です。この写真集のなかで、パーフォレーションまで含んだスキャンがたびたび出てきます。それはどこかリアルで舞台裏のような要素が伝わるパートで、すごく自分がワクワクする要素でした。
ーストリートフォトグラフィーを始めたきっかけは?また、なぜフィルムでストリート写真を?
気づいた時には、いつもストリートにいる自分がフィルムカメラを持っていたというのが自然なきっかけでした。今では渋谷の朝一番のストリートを撮影しに行こうと言うようにいざ準備をして行くことも多いですが、毎日フィルムカメラを持ち歩くようになった事がきっかけです。正直、フィルム写真である必要は無いと思います。デジカメのほうが何千枚もデータに保存できて軽くて素早い。でもいま自分にとってはストリートの速写が求められる中でも、光や光の色温度を常に意識したりするフィルムカメラのほうが撮影している時も楽しくいられます。また選択するカメラによってはフィルムカメラでも充分にストリートのスピード感についていけると思っています。なので今はフィルムカメラで撮影した方が自分らしく撮影出来ると思ったりもしています。
都市は老若男女全ての人々が行き交う場所です。時間帯によって現れる登場人物に違いがあったり、一つ路地を曲がるだけで中心街の喧騒を忘れるほど静かな場所が見つかったり、驚きに溢れています。それはストリートフォトグラフィーの1番のモチベーションです。最近、早朝に渋谷へ行った時、老夫婦が手を繋ぎしっかりとした足取りでセンター街のど真ん中でお散歩を楽しんでいました。そんな大都会に対立するような嬉しい発見もよくあります。あとは一つの物として残せる事が僕にとってのフィルムで撮る大きな意味です。ネガは全て失敗したものも含めて、僕の宝物です。
ーあなたにとってのストリートフォトグラフィーの定義とは?また、撮るときは何を意識していますか?
結論から言うと歩くことに尽きると思います。枝分かれした道からみちへ歩き回り、肉体と意識は絶え間なく変化し、心理的にも街の様子・雰囲気を感じとることで、発見に出会うチャンスが増えます。「この路地歩いてみたい!」という直感的な思いを大切にして普段通らない道に飛び込んでみるのもいいです。街の中に迷い込むことで未知の惑星に来たような観光的な視点も獲得できます。また慣れ浸しんだ街ではもっとローカル的な生活に寄り添った視点を獲得できます。そんなとき何らかに反応した自分が気づくとシャッターを押している、そしてまた歩き出す。そんな中で意識していることといえば、迷わずシャッターを押すという事だけなような気がします。
ー5ickdudeさんの投稿を見て、コンタクトシートに惹かれました。コンタクトシートを作る理由とそのプロセスをぜひ教えてください!
本来銀塩プリントにおけるベタ焼きは、プリントする際に必要な露出過不足を素早く検知したりと便利に活用する意味があると思います。一方で、私の場合はもっとビジュアル的な検知を楽しむ傾向に重きを置いています。ストリートフォトグラフィーなどでは一枚だけ撮影する事はなく、体系的に何本も同じエリアや一つのイベントをチェイスするようにさまざまなシーンや要素が散りばめられたコンタクトシートが出来上がります。その中にはなぜこんなものを撮影したのかという対象物や、多く撮影する中で見つけた気づきなどが等価なスケールであぶり出されます。体系的に見ても自分が気づいた驚きのワンショットは力を失いません。シート上でそれを再確認するような感覚です。この事からも、コンタクトシートを公開する事でネガは宝物と言うことを知ってもらえたら嬉しいなと思います。
プロセスはシンプルで、フラットヘッドスキャナーでスキャンする際に無反射ガラス2枚の間にネガを挟みます。そうすることでパーフォレーションごとまるまるネガを取り込む事が可能です。その後Lightroomで一枚ずつ適切なフィルム自体の特性を維持した色彩調整を行います。最後にPhotoshop上で36コマ全てを繋げて完成させます。この他、ネガを全て並べて一気にスキャンする方法でコンタクトシートを作成する事もあります。
ーインスタグラムの投稿にはフィルムをパーフォレーションまでスキャンした写真を頻繁に投稿されてますが、その理由をお聞かせください。また、パーフォレーションを含めて1枚の写真となった物とそうでない物と比べ、見る側の意識に変化はあると思いますか?
いまやデジタルなのかフィルムなのか、区別がつかないくらいデジタルの加工技術は進化しました。これはとても素晴らしいことです。そんな中でなぜフィルムを続けるのかという問いに対する答えにもつながると思います。スケボーが好き、良質な映画が好き、建築・フィールドワークが好き、フィルム写真が好き…これらはいずれもプロセス無くしては結果が得られないものばかりです。そのプロセスを曝け出したいし、知ってほしいという思いがあります。
はじめてパーフォレーションまでスキャンした画像を見た時、やり方がわからずにかなり研究してからやっと今のやり方に辿り着きました。パーフォレーションと写真を一目で見る時、ほとんどの場合はフレームに刻まれたメーカーのフィルムコードも一緒に見ることになります。なによりもアナログである証拠になるし、やっぱりどこか懐かしい思いにさせてくれるのがこのパーフォレーションごと写真を見る意味かなと思います。フィルム写真の本質を見る事が出来るような感じです。作品を見る側にとっては大きな変化は無いと思いますが、初めて見せる方にはいつも感動したというか驚いた様子で、どうやったの?と必ず聞いてくれます。
ーインスタグラムの投稿を見ると、1つの投稿の中に複数枚あり、ある種の"連続性"を感じます。それに関して何か意識しているものはありますか?
連続性や一貫性、また対立性などかなり意識しています。特に都市では純粋無垢なものを見つける事は不可能なので、複雑さや矛盾の中にこそ魅力的な発見がたくさんあります。一枚の写真の前後に撮影した写真、同じ場所だけど全く異なる対象物を撮影した写真など1つのフレームの前後の連続性を意識した撮影の臨場感も伝わるかと思います。
また、パーフォレーションとこの連続性(swipe)を掛け合わせた投稿方法で、大概はフレームの半分が感光してしまっているロールの1枚目から〜6枚目くらいまでをインスタグラムのCarrousel機能を利用して最近よく投稿しています。全く意識していない時のロールの開始や、1枚目から本気で撮影していることもあったりと、ロールごとに全然異なった姿勢で撮影していたのがわかる点などは自分で見ても興味深いです。
ーモノクロ・カラーの使い分けと、好きなフィルムがあれば教えてください。
モノクロ写真はまだまだ道半ばでこれからたくさん撮影したいと思っているところです。直感的な事になりますが、波や海岸線の要素をモノクロだけで撮り続けたいという思いがここ最近あります。ライフワークとしてヤシの木を密かに撮影しているのですが、モノクロで見るヤシの木はちょっと不気味なダークな印象があってすごく好みでした。都心ではコントラストが強く目立つ夜のモノクロ写真を最近好んで撮影しています。うまく引き算して行った時に面白いところでモノクロを使いたい意識があります。その反面いずれ全てをモノクロで撮影していくのでは無いかという感覚も自分の中には存在しています。純粋にモノクロ写真がとても好きなので。
ロモグラフィーのフィルムはどれも大好きです、中でもお気に入りはLomography CN400/Lomochrome Purple 100-400/Lomography CN800です。Lomography CN400はとても素晴らしい色彩表現なので都会のごみごみした世界での撮影でも色の表現にとても向いています。
ーポートレート作品もいくつか投稿されていますが、ポートレートを撮るときは何を心がけていますか?
数少ないポートレートのことをお聞きくださりありがとうございます。ポートレートはこれからもっと撮影したいのですが、私自身が恥ずかしがり屋なので実はモデルは家族もしくは友人です。いずれも、モデルと私との間で撮る/撮られるの暗黙の契約を結んだ強い信頼関係の元に成り立ったポートレートになります。そこには、僕がその方を撮りたいと思える人となりを十分理解したうえで初めてシャッターを押せる、という困難な壁があります(笑)。なので家族や友人という事はすでにその前提が取り払われるので比較的安易にポートレート撮影に望めます。
今年の夏に、東京品川の戸越銀座で撮影したポートレートではMAMIYA M645中判カメラでLomography CN100(120)を使用しました。中学時代からの友人とフラっと平日の下町で撮影しました。その感覚は中高生の夏休み的な感覚でしたが、そこに写るのは大人になった友人です。ガキの頃から仲の良い間柄なので互いにリラックスして遊びながら撮影しました。そういう経験が今後も僕のポートレート撮影スタイルをかたちづくっていくような気がしています。
ー最後に一言お願いします!
フィルムの撮影は少し面倒な事はあります。でも素晴らしい経験ができるとともに、宝物になる'物体'としての写真を残してくれます。フィルムやフィルムカメラの世界はとてもオープンで、活動している方々のコミュニティはいつもそこにあります。Lomographyもとても画期的で活動が豊かなコミュニティのひとつです。最近、父が使用していたカメラを譲り受けました。とても保存状態が良くいまでも動いていますし愛用しています。カメラは過去から現代に受け継ぐことのできる数少ない道具のひとつだと思います。色んなかたちでカメラと出会うことがあると思います、そんな時は是非一歩踏み込んで撮影に望んでみてほしいです。インタビューの機会をくださりありがとうございました。
今はスマホを開けば世界中の人が撮ったたくさんの写真を見ることができ、その1枚1枚に費やす時間はほんのわずかではないでしょうか。しかし、その写真を撮ったフォトグラファーの思想や世界観を知ることで写真の見た目の良さだけではなく、ストーリー性や文脈までも知ることができます。インタビューを読み終わった今、もう一度インスタグラム に戻って5ickdudeさんの写真を見てみてください。
5ickdudeさん、インタビューにご協力いただきありがとうございました。
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