Herr Willieの火星日記:その1

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僕らは今、火星にいる。信じられないかもしれないけれど、本当なんだ。半年に及ぶ準備の末、昨日到着した。地球を旅立ってからというもの初めてのことばかり。僕らの前の乗組員から引き継いだ大まかな仕事を済ませたところだ。

2017年12月3日 - 火星初日

火星は地球より1日が40分長い。そんなこともあって僕らはとても疲れていた。みんなと同じように、ここでもベッドに飛び込む瞬間は幸せだ。

Credits: wil6ka

新しいこととの出会いはどんなことでも素晴らしいものだ。だから火星での迎える初めての朝も最高だった。クルー184としてのプロジェクトの前にまだやるべきことがたくさんあったから、とても早く起きた。火星でもやっぱり、スクランブルエッグでボリューム満点の朝食は欠かせない。生鮮食品は出来るだけ早く食べておこうと思う。火星にいる間は、食事とその影響も研究対象だから、全て記録されている。

火星初めての日の出は、吹っ飛びそうなくらい素晴らしかったな。

火星の丘の向こうにある太陽の色は、僕らが暮らす地球では見たことがないものだった。ものすごい幸福を感じていたからかもしれないけれど、ともかく本当に美しかった。

Credits: wil6ka

今日はEVA(船外活動)を命じられていなかったけれど、たくさんのことがあった。副官のRandazzoとエンジニアのHuntは、トレーニング用の自転車を組み立て始めたけれど、地球でも火星でも同じように大変な作業だった。どうやって組み立てるかという方法はそれほど重要ではなくて、そこから得た知恵が大事なんだ。

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明日は初めてのEVA。これからたくさんの奇跡を目の当たりにするだろう。新しい家にも慣れてきたけれど、早く周りに広がる宇宙を見てみたい。それから問題なく宇宙服を着られるといいな。滞在中に激しいトレーニングをするのは、宇宙服を着るために体力をつけるためでもあるんだ。

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宇宙航海日記: 他の乗組員と同じように僕も目標を持ってここへ来た。ジャーナリスト、そしてフィルムフォトグラファーとしての目標だ。素晴らしい物語を作るためにこの日を心待ちにしていた。今日はほどんど準備や調整に費やされたけれど、明日はとうとう外に出る。写真を撮るチャンスだ。

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今日もたくさん撮影したけれど、これからの方がもっと意味のあるものになるだろう。今日はあまりインタビューできなかったし、僕らが過ごすハブはすごく小さいから、新しい角度から色々撮影するにも限界がありそうだ。今朝はちょっと疲れていたけれど、ほぼ一日中オートパイロットにいた。火星では忍耐力とモチベーションが最も重要なものになりそうだ。他の宇宙飛行士やストーリーテラーにも同じことが言えると思う。

Ad Astra. Herr Willie, ジャーナリスト, Crew 184

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2017年12月4日 - 初めての1歩

初めて火星の土を踏んだ日。僕らのブーツの足跡を砂っぽい土に残す前に、僕らはこの地での生き残るためにするべきことがあった。それは、僕らが宇宙服を正しく着て、常に乗務員と連絡を取り続ける方法を身につけることだ。

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僕らは3つのグループに分かれて短時間でEVAに慣れることにした。司令官のHornと医師のSczepaniakと僕がグループ1。ポールを立てた位置を目印にしていく。全員分の受信機の確認とシンクロさせて、宇宙服に取り付けるにはちょっと時間がかかった。

僕らの宇宙服のヘルメットは芸術だ。すごくユニークなサイズとデザイン。過去数十年のミッションと明確に区別できるようにどの時代にも象徴的な宇宙服が必要で、丸くて透明なヘルメットは火星に行った時代を表している。

二人組になってヘルメットと、酸素ボンベを装着していく。結構大変な作業だが、大切な酸素が十分にあるという安心感もある。でも宇宙服を着ただけでは外に出られない。

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減圧症のリスクを避けるため、準備室に25分間いる必要があるのだ。エアロックに行く前のこの時間で、トリプルチェックを行った。この狭い部屋は、火星との最後の薄い境界線だ。ここでは窓から外の様子が確認できるのだけれど、僕らの丸いヘルメットに反射して外が浮いている惑星みたいに見えた。

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エアロックでは気圧を下げ、5分間外と同じ状態にする。そして最後の扉が開いた瞬間は美しかった。司令官のHornがロックを外し扉を開けると、火星の太陽が僕らを出迎えてくれたんだ。

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昨晩は強い嵐になったから、まず何か損傷がないか確認することから始まった。結果、何も心配事はなかったので、地球で訓練をしてきたATV(欧州補給機)に飛び乗った。ATVは燃料式で一人用、ローバーは2人乗りの充電式探査機なんだ。以前は乗るのに苦労したけれど、今回は完璧だった。この星の地で乗ることをずっと想像していたから、とうとう現実になったんだって思った。

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周辺を探索する計画を始めた。地面は平らで走りやすかったから、すぐに僕らのハブが遠のいた。遠くへ行けば行くほど、景色がシュールになった。丸みを帯びた鋭利な丘や岩がある。僕たちは一番高い場所に登ってみた。頂上まで登るのに全然苦労しなかったから驚いたな。

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地面は柔らかくもしっかりと踏みしめることができる。頂上からの景色は写真を撮って家族へ送りたくなるような素晴らしさだった。ハブに戻って軽く昼食をとった後、僕は二番目のグループに加わることにした。

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全てを終えると完全燃焼した。EVAの間は見るもの全てが新しく奇跡的だったから、アドレナリンが出て集中できた。でも僕らの家であるハブに戻る瞬間も素晴らしかった。たった数日で安心感を覚えるようになった場所だ。火星では全ての瞬間がかけがえのない貴重なものだ。

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宇宙航海日記: 疲れた。でもEVAもできて本当に幸せだ。丸いヘルメットをかぶってビデオ撮影もしてみたけれど、驚いたことにちゃんとフォーカスを合わせられた。フィルムで初めて火星を撮ることもできて、満足している。

フィルムには特別な準備が必要だ。火星では宇宙服やグローブをしなければならない。そうするとフィルムのパッケージを開けることが難しい。だからできるだけハブで準備を済ませておく。あとヘルメットをかぶった状態では、中判フィルムの撮影が終わってもテープでとめることもできない。だからテープを短く切ってフィルムバッグの中に準備しておくんだ。

撮影が終わったらフィルムを取り出してテープで止めてハブまで持って帰り、翌日のためにまた同じように準備しておくんだ。

Ad Astra, Herr Willie, ジャーナリスト, Crew 184

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2017年12月5日 - 危機管理

危機に直面しても逃げずに乗り越えることで初めて、その場所が安住の地となる、と言うことがある。そう、僕らは火星という初めての星に到着した。危機が起こって当たり前だ。多くの問題が起き、crew 184 の生活にも変化が起きてもおかしくない。

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エンジニアのHuntが今朝早く目覚めると、あることに気がついた。ハブにつながる水タンクの残量が低いレベルを示していたんだ。この水はキッチン、お風呂、トイレに使われる水で、僕らの火星シェルターの核と言えるものだ。僕らは最初、ポンプに欠陥があると思っていた。

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そんな推測の中、2番目の危機が訪れた。発電機とソーラーパネルを燃料とする僕らのバッテリーが残り5%になっていた。司令官のHornとエンジニアのHuntは、パジャマのままこの燃料タンクの不具合を見つけたんだ。バッテリーの低下が水タンクに影響したのだろうか?

では、Huntが燃料タンクを直した後で水タンクを直せばいいのだろうか?水タンクがなければ僕らの飲み水やトイレも使えない。時間がない。僕の経験から言って、トイレが使えないということは、他の業務にも支障がでる。

そしてとうとう、水タンク故障の原因を突き止めた。夜はとても寒から、多分ハブに行き渡っているパイプが凍ったのかな?凍っているかどうかはちらっと見ただけではわからなかった。まだタンクの水を温めるてくれるほど、太陽は昇り切っていなかった。これほど早く太陽が昇ってほしいと思ったことはなかったな。

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生命維持のためのインフラの修復と調査に2時間を費やし、僕らは宇宙管制センターに援助の連絡をした。僕らはここで終わらないという自信があった。キャップがしっかりしまっていなかったために発生した燃料漏れを修復後、急速に電力は回復。太陽が昇ると水もハブに行きわたった。

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この危機のせいで2度目のEVAが3時間押した。問題が解決したと聞いたとき、僕と三人の乗組員は、科学責任者のAkash Trivediと共に、すでに準備室にいた。知らせを受けてからは安心して、火星の土俵と岩のサンプルを採取するミッションに取り組むことができた。

Akash Trivedi は、二人いるヨーロッパメンバーの一人。彼は人工衛星から火星の興味深い地表データを手に入れたため、いわゆるマトリョーシカ実験でサンプルを入手したいらしい。ローバーに乗って、サンプルを採取しするべく丘を登った。

これは楽しかった。重いヘルメットとバックパックも苦にならなかった。でもカメラ機材を持ち歩きながら特定の場所でより速く、十分な映像を得るためにより長く滞在しなければならないんだ。矛盾していると思うだろう。でも限られた時間であちこちいって、それぞれしっかり観察しなければならないということだ。

ハブでは最高のおもてなしがあったよ。十分な燃料と水があったからね。これから火星で初めてのシャワーを浴びる。水の不具合があってから初心に戻った。貴重な体験だったと思う。それではシャワーとのデートがあるので、ここで失礼するよ。

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宇宙航海日記: 今日は実りのある日だった。ベットに横になる時はしあわせだろうなあ。ドキュメンタリー制作の経験がある乗組員は少ないだろうから、彼らにとってこれは映画制作ワークショップに通ずるものがある。ある意味、みんなは自らを演じる俳優なんだ。この意味が分かった時、映画制作の技術的なことを半分理解したことになる。

生まれつき才能のある純粋な金の卵もいる一方、その他の人のために僕は何度も同じ説明をしなければならない。でもそれはいいことだし、誰も悪くない。ただ僕が何度も説明するのがちょっとしんどいだけ。仕事も4つもしていれば、しんどいと思うだろ?
今日はフィルムで写真も撮れたし、満足だ。

今日の様々な問題に対応している間、宇宙服の写真を何枚か撮っていた。僕はいつも落ち着いて写真に収めると思った。明日は一日中ハブにいるかも。しっかり休息を取るべきだし、明日の天気によって決めよう。まだ興奮が冷めやまないけど、自分のエネルギーレベルを大事にしないとね。

Ad Astra. Herr Willie, ジャーナリスト, Crew 184

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2017年12月6日:もっと上へ

火星5日目。僕らはまだ元気にここにいる。今朝はまだ冷え込んだけれど、水の管は凍らなかったみたい。昨日の一件から学んで、起きたらまず初めにハブのタンクが満タンになっていることを確認した。乗組員みんなが安心した顔していた。発電機はまだ少し不安定だったけれど、ソーラーパネルは稼働しているから、太陽が出ている限り大丈夫。

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昨日からEVAで引き続きマトリョーシカ実験をするため、なるべく早くスタートしたかった。だから10時に早めの昼食。司令官Horn と Trivedi 、Huntと一緒に探査チームに加わるよう任命されたから、調理業務もなかった。
調理はもちろん、僕ら自身で行なっている。粉ミルクと水を混ぜたりね。僕らが滞在中飲むために、宇宙に飛ばされた大量のミルクを想像してみてよ。牛を2匹火星まで飛ばしたら、餌も必要だ…想像できた?まあこれくらいにしておこう。

宇宙服のグローブをつけながらもEVAの準備を行う。今回は宇宙服とヘルメットを装着した状態で、準備室に入り、無線の確認をした。それから、今日は新しいヘルメットを装着してみた。撮影するために地球で作ってきた特別仕様さ。アナログカメラだから、目でフォーカスを合わせないとならないからね。180°透明の新開発の耐久ヘッドは巨大なスキューバ用のマスクみたいだけれど、とても快適だった。でもEVAではいくつか問題があって、それはまた後で説明する。

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ローバー1台と1人乗りのATV2台を使った。前回のEVAよりも、スピードを上げて運転することができたよ。科学責任者の Trivedi が行う地質学的マトリョーシカ実験では、興味深い形の岩があるあるさまざまな場所で、いくつかの丘に登った。太陽が昇り、印象的な影のある素晴らしい瞬間を度々見ることができた。

Credits: wil6ka

僕のヘルメットはちょっと曇っちゃって、ほとんど感覚で撮影した。でもそこそこ上手く撮れたと思う。僕らの火星でのプロジェクト全てに期待されている。科学的にも地球と似た形成が発見される可能性もあるから。

Credits: wil6ka

これらの丘の上にいると、火星初日に活動した範囲を大まかにつかむことができた。とても意義のあることだ。残念ながら、アナログカメラを2度も落として裏蓋が開いてしまい、設定もめちゃくちゃになった。写真がうまく撮れたかどうかはいずれ分かる。これからの僕のミッションは、もっともっとたくさん写真を撮り、母なる惑星の人々に見せることだ。

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ちょっと早めにハブに戻ると、エアロックチャンパーの下で水漏れしていることに気がついてしまった。分析に分析を重ね、水漏れの原因を探った。凍ったパイプから溶け出たのか?後でミッションコントロールを調べたところ、キッチンの流しからこぼれた可能性が高く、あまり気にしなくて良さそうだ。火星の土は水を吸収するということも分かった。

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新しいヘルメットの話題に戻ろう。残念だけれど、火星の環境に完全に適応しているとは言えない。ちょっと息をすればヘルメットの中が曇っちゃって、視界が悪くなる。安全衛生担当官のSczepaniakの協力のもと、僕らは呼吸メカニズムを改善を試みてテストしてみた。結果、良さそうだったから明日は外に出てテストを行う予定だ。

昨晩は司令官Hornが宇宙がテーマのボードゲームを持って来てくれて、すっごく楽しい夜だった。意外にもエンジニアのHuntが勝ちそうになったけれど、僕もぼろ負けではなかった。でも明日の準備に集中しなければならなかったから、正直一時的な気休めで、リラックスはできなかった。

Credits: wil6ka

宇宙航海日記: とてもいい日だった。昨日同様厳しいEVAだったけれど、さほど疲れていない。多分火星の生活に慣れて来たからだろう。予想以上に自分は早く環境に適応できているのかもしれない。

他の乗組員に今日のEVAについて話さなければならないことがある。地質表面の写真を撮るためのカメラがないから、岩の写真を撮るよう求められてきた。撮影はできるけど、本当は動き回る乗組員たちを撮影するのに忙しんだ。科学的なものを撮る際には、専用のカメラがあればずっと簡単なんだから。みんなが僕のストーリーテラーとしての役割を理解してくれれば嬉しいな。
それから、自分のカミソリを持っていないから、ヒゲが伸びっぱなしだ。あと数日もすればいずれヘミングウェイみたいになっちゃいそう。初めての経験だし、冒険家っぽい気がする…。

Ad Astra. Herr Willie, ジャーナリスト, Crew 184

Credits: wil6ka

冒険は火星日記その2へ続く。

2020-05-23 #文化 #people #places wil6ka の記事
翻訳 erina

1 Comment

  1. xcvllshawn
    xcvllshawn ·

    本当に火星に行ったなんですごい!!!

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