【テクニック記事】多重露光を生かしたポートレートの撮り方

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モデルさんを主役にした「ポートレート撮影」は、撮影ジャンルの中でも人気のひとつです。そして多重露光は幻想的な世界をもたらすテクニックですが、これらを組み合わせるとどうなるでしょうか。ポートレートに多重露光の要素が加わることで写真には独特の物語・世界観が生まれとても面白いものになります。今回はその「多重ポートレート」をテーマに、撮り方やポイントを説明したいと思います。

女性モデルと梅の花による多重露光

ポートレート撮影は、モデル(男性・女性・子供など)を主役にした撮り方で、写真の中に人物を中心とした物語が形成され、見る人に喜怒哀楽等様々な心象を与えるポピュラーな写真ジャンルです。一方、多重露光は、現実の目に映る世界とは異なる世界を表現できる創造性・イメージ性の高い撮り方で、やや特殊な写真表現といえます。

ではそれらが融合するとどうなるのでしょうか?私、hodachromeは作品の幅を広げるために近年多重ポートレートを積極的に取り入れていますが、生まれる写真はとても魅力的で面白いものが多いです。主役に据えられた人間がもたらす世界観と、多重露光がもたらす幻想性・創造性が、ときにファンタジー映画のように、ときにSF映画またはホラー映画(?)のようにいくつもの物語を生み出し見る人の目を惹きつけてくれるものとなります。

では、その「多重ポートレート」をどうやって撮るのかを見ていきましょう。

基本設定

■ 露出の基本設定は-0.5~-1補正(ただし被写体の明るさ・色による)
■ フィルムは高感度過ぎないものがベター(ISO100~400程度)
■ ポートレート撮影はストロボ、レフ版、各種フィルター等自由に使ってOK

ポートレート(人物)の撮り方

ここでは一般的なポートレートの撮り方については書きませんが、経験上私が得た「多重露光に適した」ポートレートの撮り方というものをいくつか説明します。
※ポートレートの説明が先になっていますが、どちらを先に撮るかは自由で順番に技術的に差異はありません

①モデルを明るく写す場合は周囲(背後)をなるべく暗く
モデルが明るくて周囲の景色も明るいと、画面全体に明るい部分が多すぎて二回目に重ねた被写体がうまく浮かび上がりません。モデルを明るく撮る場合は周囲(背後)をなるべく暗くし、二回目の被写体が浮かび上がる部分を確保しましょう

②モデルを暗く写す場合は周囲(背後)をなるべく明るく
これは上記と逆で、モデルを逆光などシルエットにして暗く撮る場合は、その周囲(背後)をなるべく明るくして人物の輪郭をくっきり浮かび上がらせるようにします。二回目の被写体と重なる部分は暗くなったモデルが主で、周囲は明るいため二回目の被写体の影響はあまり受けません(or受けてもくっきりとは浮かび上がらない)。

③明るすぎる光より曇り・日陰・屋内などの柔らかめの光のほうが向いている
これは多重露光全般にいえることですが、好天下の明るすぎる日差しは多重露光の性質上露出オーバーとなり失敗しやすく、コントラストが低めの弱めの日差しの下で撮るほうが重なったときにギラギラしすぎずうまくいきやすいです。

人物でない方の撮り方

次に人物ではない方(二回目に重ねる方)について。何を撮るかは自由で基本的にどんな被写体でもいいのですが、私は季節の花々などの自然や人工物(建物等)や街の景観などを撮って、それぞれの異なる個性との対比を楽しむことが多いです。ということで撮る際のポイントをいくつか紹介します。

①一回目に暗く写った部分になるべく明るいものを撮る(逆に一回目に明るかった部分は二回目は暗く)
一回目に撮った内容をよく意識して、暗かった部分にはなるべく明るいものを、逆に明るかった部分にはなるべく暗いものを重ねて両者をくっきりと浮かび上がらせるようにします。

②明るすぎる日差しより曇り・日陰などを選ぶ
これはポートレートを撮るときと同様で、強すぎる光が完成写真をギラギラ明るくさせ過ぎて失敗してしまいがちなのでなるべく柔らかめの光の下で撮るのがベターです(ただし被写体の色・明るさによります)。

③空を入れすぎないようにする
空は晴れてても曇ってても反射率の高い明るい被写体です。なのであまり多く入れるとモデル側の像が白飛びしてしまうので入れすぎないよう気をつけて配分を決めます。

以上が多重ポートレートの撮影の際の大まかなポイントですが、次に多重露光の種類による特徴・使い分けを見ていきましょう

多重露光の種類

多重露光には二つの種類がありますが、ポートレートで用いる場合それぞれどういう特徴があるのか見ていきましょう。

①その場多重(初心者向け)
多重露光機能を有しているカメラで可能な撮り方(LOMO LC-A+、LOMO LC-Wide、LOMO LC-A 120La Sardina 、Dianaシリーズなど)。その場で二回重ねて完成させていく気軽な方法です。

■ メリット…その場の出会い・インスピレーションを生かして自由に撮ることができる。コマの位置がずれない。モデルさんと完成イメージが共有できる。
■ デメリット…二つの被写体の間を何度も行き来する手間がかかる。その場でいい被写体が見つからないと撮影が進まずモデルさんを待たせることになる(真夏・真冬など負担大)。

②セルフフィルムスワップ(中上級者向け)
一枚ずつ撮ったフィルムを再度カメラにセットして二回目にまた一枚ずつ撮って重ねていく撮り方。多重露光機能がないカメラでもトライできますが撮り方にはやや注意が必要。

■メリット…綿密に計算した撮影プランを立てられる。撮りためておいた素材の上に重ねていくので成功率・完成度が高まる。二回目の被写体を探す手間がいらないのでテンポよくモデルさんだけを撮影できる。
■デメリット…フィルムのコマの位置がずれやすい。一回目に撮った内容を覚えておかないといけない。モデルさんと完成イメージが共有しにくい。その場の面白い出会いに対応できない(すでに一回目が撮ってあるor後日二回目を撮るのでその内容に縛られる)。

※セルフフィルムスワップの詳細についてはこちらの記事をご参照ください
▶︎【テクニック記事】セルフフィルムスワップの方法

では、ポートレートに多重露光を取り入れる場合、どちらの撮り方のほうがよいでしょうか?結論としては別にどちらでもいいです。それぞれの特徴を踏まえた上で自分に合った撮り方を選んでもらえれば全然OKです。どちらの撮り方の場合でも、モデルさんとコミュニケーションをしっかり取り、どう重ねていくかのイメージをなるべく共有し、できればアイデアを共に出し合いながら撮っていくと撮影はより楽しいものになりますよ♪

ということで、ぜひ皆さんのポートレート撮影に多重露光を、または皆さんの多重露光にポートレート撮影を気軽に取り入れてもらえたらなと思います。これまでの写真に一味ちがう魅力が加わることまちがいなしですよ!

最後に私の多重ポートレートの代表作をコメントと共に紹介させていただきます。
Enjoy your multiple-portraits!!

題名:郷愁のトロイメライ/ カメラ:Canon EOS7 / フィルム:Lomography CN100
落葉した柿の葉と女性モデルとの多重露光。一回目に葉っぱをマクロレンズで撮り、大きく穴の開いた右側を意識して女性の顔を配置。葉にピントを合わせたため女性は少しアウトフォーカス気味にして遠近感を出した。
題名:早春のシルエット / カメラ:Canon EOS7S / フィルム:Lomography CN100
梅の花と女性の横顔との多重露光。人物を完全なシルエットにすることで梅をしっかり表し枝の流れもしっかり表現。女性の輪郭も明瞭に出るよう背後の明るさ・構図に最大限の注意をして撮影。
題名:蒼刻の果て / カメラ:Canon EOS7S / フィルム:LomoChrome Purple XR100-400
真冬の氷柱群と廃墟での女性のポートレートとの多重露光。氷柱の中心部分に暗い岩肌部分を多く確保し女性をそこに配した。冬の冷たい空気感と廃墟の質感が調和するよう意識して撮影。
題名:Locked away / カメラ:Canon EOS7S / フィルム:Fuji Superia400
一回目に割れた鏡越しの女性を撮影し、その後バラの花を二回撮影。投影する鏡の向こう側の女性の表情にこだわり、そこにバラの花を組み合わせることで非現実感と幻想感を加味した。
題名:世界の終わりに -the day the world ends- / カメラ:Canon EOS7 / フィルム:Lomography CN100
高層ビル群をバックにシルエットで撮影した女性とひまわりによる多重露光。撮影後に「フィルムスープ」処理をし、画面に予期できないケミカルなエフェクトを加えてサイケな世界を創造した。
※フィルムスープの詳細についてはこちらの記事をご参照ください
▶︎【テクニック記事】フィルムを調理しよう!フィルムスープの方法
題名:昨日の私へ -hello from other side- / カメラ:Canon EOS7S / フィルム:Fuji Superia400
画面右側はフィルムのオモテ面、左側は同じフィルムの「裏面」より露光したもの(フィルム両面露光)。通常の世界と「反転した」世界、そして通常の色合いと裏返したことによる赤みを帯びた色合いを同時に表現させた。
※フィルム両面露光(EBS)の詳細についてはこちらの記事をご参照ください
▶︎【テクニック記事】Exposing Both Side of the Film (EBS)」によるシンメトリー写真の撮り方
題名:秋風のカンヴァス / カメラ:Canon EOS7S / フィルム:Lomography CN100
並木をバックにしたポートレートと、同じ構図での「油絵」を撮影して重ねたもの。写真と絵が同じコマで共演し独特の雰囲気が生まれた。撮影中に偶然絵を描いていた人と出会ったことでひらめいた撮り方。

Author: hodachrome山本穂高
岐阜県出身のカメラマン。2007年に Lomo LC-Aと出逢い、その魅力の虜となる。世界のロモグラファー・フォトグラファー達と研鑽を重ねながら、国内外を問わず写真展への参加、写真集・グッズ販売、写真講座・ワークショップ等、幅広く活動する日々を送る。

▶︎「令和元年第一回!フィルムカメラで撮る多重露光ワークショップ」

2019-04-20 hodachrome の記事

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